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和歌山地方裁判所 昭和60年(ワ)539号 判決 1989年5月31日

主文

一  被告は、第一事件原告中村珠子に対し、四九一万七〇〇〇円及びこれに対する昭和六〇年九月二七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、第二事件原告池永千賀子に対し、五〇〇万五〇〇〇円及びこれに対する昭和六〇年九月二七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  第二事件原告池永千賀子のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用中、第一事件原告中村珠子と被告との間に生じた分は被告の負担とし、第二事件原告池永千賀子と被告との間に生じた分はこれを三分し、その一を同原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

五  この判決は、第一、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(第一事件)

一  請求の趣旨

1 主文第一項と同旨

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 第一事件原告(以下「原告中村」という。)の請求を棄却する。

2 訴訟費用は同原告の負担とする。

(第二事件)

一  請求の趣旨

1 被告は、第二事件原告(以下「原告池永」という。)に対し、七六六万七〇〇〇円及びこれに対する昭和六〇年九月二七日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告池永の請求を棄却する。

2 訴訟費用は同原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  被告は、昭和四二年一〇月、井登善園芸の商号で観音竹の売買を始めたが、昭和四八年、観音竹のうち「東海錦」及び「達磨の縞」の二品種(以下「本件二品種」という。)を取引の対象とし、その買主である自己の顧客を会員とする全国観音竹愛好家協会(以下「全観会」という。)を発足させた。

2  被告は、全観会発足に際し、次の原則を定めた。

(一) 対象とする観音竹を総柄の本件二品種に限定し、一鉢の小売価格を最低三〇万円とすること。

(二) 取引の三原則

(1) 三年間元金保証(顧客に売却した観音竹は、三年間に限りその当初の売買価格で買取りに応ずる。)

(2) 換金は自由とすること

(3) 最低年二割の利殖の約束(売却された観音竹については、顧客に対し、最低でも右売買代金額の年二割の割合に相当する利益金を支払う。)

(三) 他の業者との売買、顧客同士の売買の禁止(顧客は、買受けた観音竹を、他の園主や顧客等に売却することはできない。)

3(一)  被告は、昭和四八年の全観会発足以来全観会で唯一の園主であったが、昭和五二年八月、被告の下で幹事(分園主)として園主見習いをしていた訴外和田一雄、同堀川照夫、同鈴木久子の三名を新園主として独立させ、自らはOB園主となった。

(二)  園主は、取引の三原則により、顧客に販売した観音竹について買取義務を負っていたが、被告は、園主が幹事を園主に昇格させ、自らがOB園主となるときは、右買取義務を新園主に負わせるもの(債務引受)とし、OB園主は買取義務を免れるものとした。

4  観音竹商法においては、被告を最高責任者(リーダーと称している。)とし、その下に苗木栽培及び園主の指揮監督をするOB園主、さらにその下に観音竹を販売する園主(現役園主)があり、園主から依頼された観音竹を管理、栽培する分園主(幹事)がある。その組織は別紙組織図のとおりである。分園主は園主からその管理にかかる観音竹を譲り受けて園主に昇格し、これに伴い前園主はOB園主に昇格する。

5  被告は、観音竹の売買を始めるにあたり、本件二品種の小売価格を一鉢最低三〇万円に固定するとともに、その自由な売買を禁止して、全観会に所属する園主とのみ売買できる仕組みを作ることにより、右価格を維持しようとしたものであるが、これは全観会においてのみ通用する価格であるにすぎない。本件二品種の観音竹が希少性のゆえに高価な価格で取引されるものとするのはまったくの虚偽であり、一鉢最低三〇万円の小売価格による販売は対価的均衡を失した暴利行為である。

6  出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)違反

観音竹商法は、外観上は売買の形式(正確には再売買の予約付売買)をとっているが、その実質は出資法二条に規定する「預り金」にほかならない。すなわち、観音竹商法においては、

(一) 元金を保証して弁済期(随時)に返還を約束している。

(二) 売買にかかる観音竹は、すべて園主が管理し栽培するのを原則とし、趣味の商品であるとの被告の主張にかかわらず、顧客は品質保証書というカードを持つにすぎず、自ら観音竹を持ち帰って栽培し、鑑賞することはない。

(三) 原告らに観音竹を売却した訴外高井聖造の破産管財人がその保管していた観音竹を任意売却したときの価格は一鉢八四六円であり、仮に市場価格をこの三・五倍の三〇〇〇円と想定したとしても、一鉢最低三〇万円とする観音竹商法の固定価格との間には一〇〇倍の開きがあり、したがって、売買の形式をとっていたとしても商品と価格との対価関係が認められず、売買は単なる仮装手段にすぎない。

(四) 客同志及び他の業者との売買を禁止し、常に販売した園主のみが買取義務を負うものとすることは、園主による預り金の払戻しと同一の経済的性質を有するものである。

(五) 園主は販売した観音竹を売り切りの形で利益を得るのではなく、常に買取義務が予定されており、一般の売買とは著しく異なる。

(六) 仮に、観音竹が枯れたり、被告の定めた検査基準に沿う葉ができなかった場合でも、一年後には、園主は最低年二割の価値を増加させた場合と同等な観音竹と交換するか、二割の価格を増加した額で買い取るべき義務を負っている。これを実質的にみれば、一年後に最低二割の利息を付して元金を返還するのと経済的には同義である。

(七) 販売対象である顧客は、昭和四二年当時の一人から、昭和六〇年七月には鉢数一二万鉢、客数一万人(推定)に増加しており、不特定多数の客を対象としていることは明白である。

以上の事実によれば、観音竹商法は外観上は売買の形式をとっているのが、その実質は観音竹の売買に藉口して大衆の利殖を目的として行われてきたものであり、弁済期(随時、換金請求時)に元本と最低二割の利息の支払とを保障して不特定多数の者に対し一口(一鉢)最低三〇万円で金銭の受け入れを行ってきたものであるから、出資法二条二項に規定する「何らの名義をもってするを問わず、これら(預金等)と同様の経済的性質を有するもの」に該当するのは明白である。

7  公序良俗違反

観音竹商法は、以下に述べるとおり、当初から破綻することを必然とする商法であり公序良俗に反する。

(一) 園主が観音竹の仔木を一鉢四万円で仕入れ、これを最低三〇万円で顧客に売った場合、幹事、理事等への販売紹介手数料として一割(三万円)を支払うほか、栽培管理等の諸費用が必要なため、手元に残るのは二三万円以下である。これを一年後に最低二割の利殖を付して買い取ると最低三六万円となり、実質的には一三万円の損失となる。すなわち、この商法では園主は売値の二割増の価格で買い取る義務を負うので、販売と買取を繰り返すほど園主の損失は増加する。

(二) 分園主が園主に昇格する基準は一定しないが、二年以上分園主として園主見習いをし、引き継ぎの鉢数が一〇〇〇鉢あることが一応の目安とされている。

仮に、<1>園主昇格時に前園主から引き継いだ鉢数を一〇〇〇鉢、<2>一鉢三〇万円で売った観音竹につき実質上園主の手元に残る金額を二〇万円とし、<3>年二割の増加額を付して買い取るものとすると、利息の支払いをするためだけに販売しても、別表記載のとおり、三年後には支払い利息の合計が一億三一八二万円となり、総額五億六五五〇万円の元本返還債務が残る結果となる。現実にはこの額以上の債務が発生するのであって、この商法を継続すればするほど債務額は累積的に増大する。

(三) 観音竹商法は売り切り商法ではなく常に買取義務を伴うものであるから、客の買取請求を抑え、買取請求鉢数以上の鉢数を無限に販売し続けなければ成り立たない商法であって、この商法自体が支払い不能となることを構造的に内包しているのであり、公序良俗に違反するものであることは明白である。

8  詐欺による不法行為

(一) 原告らは、訴外高井聖造に対し、別紙売買一覧表(一)、(二)各記載のとおり観音竹の売買代金名下に金員を支払った。その際、訴外高井は、各原告に対し、観音竹商法の取引の三原則を明示的又は黙示的に約した。

(二) 訴外高井は、昭和五八年七月、独立して園主となり、貴志園芸から一二〇〇鉢を引き継ぎ、これにより、買取価格を一鉢最低三六万円として四億三二〇〇万円の返還債務を引き受けることになった。その際、同訴外人は、貴志園芸から一〇〇〇万円の開業資金を贈与されたが、四億三二〇〇万円の買取義務を履行するだけの資力はなく、昭和五八年一一月には全観会の執行部から二〇〇〇万円、昭和五九年に二〇〇〇万円、昭和六〇年に二一〇〇万円の借入れをしないと経営できない状態であった。

(三) 訴外高井は、買取義務を含む取引の三原則を確実に履行する資力もないのにあたかもあるかのごとく仮装し、原告ら顧客をして安全確実な高利回りの定期預金のごときものと誤信せしめ、右錯誤に基づいて原告らに本件各観音竹の購入をさせた。

(四) 以上のとおり、訴外高井は、各原告に対し、詐欺による不法行為責任(民法七〇九条)を負うものである。

9  被告の責任

被告は、以下のとおり、訴外高井と共同して各原告に不法行為を行い、又は少なくとも訴外高井の各原告に対する不法行為を幇助したものであるから、民法七一九条一項又は同条二項により責任を負うものである。

(一)(1) 被告は、昭和四二年、観音竹一鉢を最低三〇万円とし、取引の三原則に基づく観音竹商法を案出し、これを具体化し、推進実行した。

(2) 被告は、昭和四八年全観会を設立し、客を会員として自らは会長となり、昭和五二年には三名の幹事を独立させて自らはOB園主となり、全観会をOB園主-現役園主-幹事(分園主)-常任理事-理事-一般会員(客)という形態に組織化し、各園主を指導して観音竹商法を推進した。

(3) 被告は、昭和五五年ころ、井登善園芸内に検査場を設け、自ら検査基準を設定した。仔木の検査は右検査場において行い、検査を通過したもののみが全観会で通用する観音竹と定めた。すなわち、各園主は検査場の検査を合格した仔木の供給を受けなければ営業を続けてゆくことができず、被告は、検査制度と仔木の供給を通じて各園主に対する支配を確立した。

(4) 被告は、昭和五八年六月、訴外貴志園芸の貴志園主の蒸発に際し、OB園主、現役園主とともに対策を協議し、執行部を通じて約三億円の融資を決定し、貴志園芸の倒産及び客の取りつけ騒ぎを防いだ。

(5) 被告は、昭和五八年一一月、取りつけ騒ぎを防止するため、いわゆる買取運動のための特訓(合宿)を企画、実行し、被告の自宅にほとんど全部の園主を集めて買取方法について演技指導の方法でこれを指導するとともに、右特訓に参加していた訴外高井のために、執行部に対し二〇〇〇万円の営業資金融資の斡旋をし、同訴外人に対し被告の考案した観音竹商法を推進するよう指導助言した。

(二)(1) 被告は、全観会の観音竹の普及率を年五〇パーセントと予想し、昭和六三年ころには約九万鉢となり飽和状態になることを予想し、商法の転換を考えていた。

(2) 被告は、昭和六〇年五月、全観会の業者(園主)数名とともに日本観音竹業者組合を組織した。この団体は、全観会と異なり、観音竹の売り切り商法をとり、取引の三原則は約束しない。しかも、販売対象地域は和歌山県以外である。そして、被告がこれを企画したのは昭和五二、三年ころであった。このように、被告は、観音竹商法が飽和状態に達しいずれ破綻することを認識したうえで、右業者組合を発足させたものである。

(3) 以上のとおり、被告は、観音竹商法の行きづまりを昭和五二、三年ころには予見しており、観音竹商法が破綻することを認識予見しながら、それにもかかわらず違法な観音竹商法の立案者としてこれを推進し、実質上の全観会の統括者として訴外高井をはじめ各園主を指揮命令し、観音竹商法を推進してきたものである。

10(一)(1) 原告中村は、売買代金名下に別紙売買一覧表(一)売買価格欄記載のとおり合計四四七万円の金員を出捐し、同額の損害を受けた。

(2) 同原告は、本件訴訟を原告訴訟代理人に委任したが、損害額の一割に相当する四四万七〇〇〇円が本件と相当因果関係のある弁護士費用である。

(二)(1) 原告池永は、売買代金名下の別紙売買一覧表(二)売買価格欄記載のとおり合計金六九七万円を出捐し、同額の損害を受けた。

(2) 同原告は、本件訴訟を原告訴訟代理人に委任したが、損害額の一割に相当する六九万七〇〇〇円が本件と相当因果関係のある弁護士費用である。

11  よって、共同不法行為による損害賠償請求権に基づき、原告中村は被告に対し四九一万七〇〇〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六〇年九月二七日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを、原告池永は被告に対し七六六万七〇〇〇円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である右同日から支払い済みまで右同割合による遅延損害金の支払いを、それぞれ求める。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

(認否)

1ないし3の各事実は認める。4ないし7の各事実は否認する。8(一)の事実は知らない。8(二)(三)の各事実は否認する。9、10はいずれも争う。

(被告の主張)

1 被告が昭和四二年から昭和五二年八月まで行った観音竹園芸事業は、日本三大古典園芸として人に愛好されてきた観音竹のうち本件二品種の成長、繁殖、縞の遺伝状況を実際に当たって深く研究し、その保存と繁殖を図ると共に価額を安定させることにより、愛好家の鑑賞に供すると共に実益をあげることを目的として、本件二品種を栽培、販売、育成管理する事業であった。

2 被告は、昭和四二年から昭和五〇年までの八年間の栽培技術を尽くしての研究と栽培実績から、本件二品種の価額を安定させることこそ観音竹の保存と繁殖、販売の目的を達成するために重要であると考え、日本観棕会からの苗木の仕入れ価格を検討し、併せて観音竹の成長ぶりから愛好家(客)と園芸者の収益性を研究し、全観会における仕入れ価格を四万円、愛好家への販売価額を三〇万円とし、取引の三原則を含む全観会システムを創り出して観音竹を販売することにした。

3 全観会システムにおいては、園主は、本件二品種の価額を三〇万円と固定して客に販売するに際し、当該観音竹(鉢植)に番号を付して写真撮影した後、品質保証書を交付して当該観音竹を預かり、技術者である園主がこれを育成し、検査員が一か月ないし二か月間隔で観音竹の成長、葉の縞及び割仔の繁殖度を検査し、その結果が判るように表示する。検査の結果生育度の悪い鉢は園主手持ちの生育の良い鉢と取り替えられる。客から観音竹買い戻しの申出があると上昇した価額で業者が買い戻し、その業者はこれを他の客に販売する。業者は栽培の技術を向上させ、その価額の上昇率を一年間で二〇パーセント以上とする。その上昇率が二〇パーセントを越えたときは上昇率の一〇パーセントを栽培費として業者が受け取る。

このシステムは、昭和四二年以来一八年間行われてきている。

4 全観会の園芸業者は、観音竹栽培の技術を身につけ、二年ないし五年の間に良い仔をいかに多く繁殖させるかを考えて努力し、その仔を古木になり無価値になった親木に代わる価値のあるものにする。この方法で仔を繁殖させるとき、客は一本の観音竹で三年経過時に二〇万円ないし三〇万円の収益をあげ、園芸業者は一本で約一〇万円の栽培賃を収益としてあげられる。すなわち、三年経過時に仔が出ることによって、三年前に三〇万円で売買された観音竹は四八万円から五〇万円になっている。この観音竹を業者が価額相当の四八万円ないし五〇万円で買い受け(再売買)、客に代金を支払う。業者は二本ないし三本の仔を分け検査に合格した仔(合格率四〇パーセントないし五〇パーセント)一本を三〇万円で売り、親木を四〇万円で売ると合計七〇万円になる。すると、業者は三年の生育で、七〇万円から当初の仕入原価四万円と手数料(一〇パーセント)並びに買取金五〇万円を差し引くと一三万円が栽培手数料(収益)となる。

従って、観音竹の販売は検査に合格した観音竹及びその範囲内でのみ行われ、また、観音竹を買った客に観音竹を持ち帰らせると仔を繁殖させる栽培技術がないので仔を取ることができず枯れさせてしまう虞れがあるので、園芸業者が預かって栽培し、観音竹の繁殖と普及に努めている。

5 右のように厳選された本件二品種は、割仔つき(仔分け前のもの)で総柄のものは各地の百貨店に三〇万円以上の価額で売り出されている。したがって、本件二品種の実質価格は一鉢三〇万円以上である。

6 被告は、全観会等において、園主を指揮、監督した事実も、役員、幹事を選任した事実もない(役員、幹事といわれる者は園主が選任していた)。園主は、自主独立採算で観音竹園芸事業を経営し、仕入れから販売まで被告とは関係なく行っており、被告に拘束される何ものもなかった。被告は園主に観音竹を御値で売却する以外に金銭を収得することもない。また、被告はリーダーではなく、原告の主張するような組織もなかった。被告は園芸業者に観音竹栽培の助言をしてきたのみである。

7 以上のように、被告の考案した観音竹商法に違法性はなく、各園主は被告とは無関係に観音竹を仕入れ、客に販売し、客から買い取り、客に再販売し、親木から仔木をとるなどして観音竹園芸事業を行っており、訴外高井との間に共同性も幇助性も存在しない。

第三  証拠<省略>

理由

一  請求原因1ないし3の各事実(被告が全観会を発足させたこと、被告は、その際、<1>取引の対象を本件二品種に限定し、一鉢の小売価格を最低三〇万円とすること、<2>園主は、三年間元金保証、換金自由、最低年二割の利殖の支払いを内容とする取引の三原則を守ること、<3>顧客は観音竹を他の園主や顧客等に売却することはできないこと等を定めたこと、被告は、昭和五二年八月に三人の園主を独立させるとともに、園主が幹事を園主に昇格させ自らがOB園主となるときは、観音竹の買取義務を新園主に負わせることとし、OB園主は買取義務を免れるものとしたこと)は当事者間に争いがない。

二  <証拠>を総合すると、次の各事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

1  観音竹は、東洋蘭、万年青とならび日本三大古典園芸を構成する観葉植物として古くから人々に親しまれ、特に高価な趣味の品として愛好されてきたものであるが、昭和二三年に日本観棕会が結成されるとこれが中心になって観音竹業界が形成されてきた。

観音竹は繁殖し、いわゆる株分けの方法により仔を独立の鉢植えとすることができるが、株分けしてから六か月以内のものを割仔、六か月から約一年半までのものを中木、約一年半から約三年までのものを若親、約三年から約七年までのものを笠親、約七年以上経たものを「けんがい」と呼び、観音竹の寿命は約三〇年である。また、一本の木から約五年間(若親から笠親までの間)に一〇本程度の仔が生まれ、そのうち、遺伝的に親の素質を受け継いで立派な形、縞を持つのは三、四本である。

観音竹の栽培は芸術的な要素を有し、観音竹はその全体の姿、葉形、葉色、縞の入り方、成長の度合等により観賞価値に差異が生じ、品質の良い観音竹は高額な値段で取引されることがあった。例えば、昭和二六年ないし同三〇年ころ「達磨の縞」が一鉢二〇万円もしていたことがあり、昭和三七年ないし同四〇年ころ「東海錦」が一鉢一〇〇万円から一六〇万円もしていたことがあり、また、昭和四二年ころ「東海錦」の割仔総柄が一鉢三〇万円から七〇万円もしていた。被告自身も、昭和五五、六年ころから百貨店に店舗を出し、一鉢三〇万円以上する観音竹の販売に当たったことがあった。

2  被告は、昭和三九年ころ観音竹に興味を抱くようになり、観音竹の品種の特徴、芸術性、栽培技術、商売の方法等を学ぶうち、昭和四二年一〇月ころ観音竹を商売として始めることを思い立ち、それに関する知識、技術の修得に努めつつ、観音竹の販売にかかわっていたが、それまでの日本観棕会のやり方に疑問を感じたため、昭和四八年ころ観音竹の保護、保存、普及を目的として、請求原因1,2の事実について認定したとおり、観音竹の価格を一鉢最低三〇万円と固定し、取引の三原則を約束する全観会システムを考案して、全観会を発足させた。

3  園主は、全観会システムにより観音竹を販売した場合、顧客に対し、その観音竹の写真を添付し、登録番号、品種等を記載した品種保証書を交付してその品質を保証すると共に、園主が当該観音竹を預かり、これを栽培、育成させるが、園主が観音竹を預かることにしたのは、顧客が観音竹を持ち帰ると栽培技術が伴わずに、観音竹を枯れさせてしまうことを考慮した結果である。仮に園主の保管する顧客の観音竹に生育度の悪い鉢が生じた場合、園主は手持ちの生育の良い鉢と交換し、又は、顧客から買戻しの申出があれば販売価格に対し最低年二割に相当する価値を付して買い戻すこととされていた。

4  被告は、全観会システムを考案した後の昭和四九年ころ、観音竹栽培業者を養成する必要性を感じ、次のような園主養成制度を新たに考案し、全観会システムの一環として組み入れた。

すなわち、観音竹栽培業者(園主)になろうと志す者は、客と園主との間で観音竹販売の仲介をする役員を経て幹事と呼ばれる業者見習いとなり、一定期間園主の指導の下に栽培技術の習得、観音竹の知識の収集、商技術の習得に務め、それらの経験を基にして自ら園主として独立する意思を固めた者は、右園主の了承を得てその有する客と観音竹を引き継いで新園主として独立することができる。その場合、旧園主はOB園主となるが、同人が顧客に対して負っていた取引の三原則に基づく観音竹買取義務はすべて新園主が負担し、OB園主はその買取義務を免れるものとした。また、被告は、新園主の引き継ぐ顧客の数が六〇〇人以上のときは、旧園主は新園主に対し営業資金として一〇〇〇万円を贈与し、その顧客数が六〇〇人未満のときは一〇〇〇万円を貸与するというきまりをも定めた。

5  被告は、昭和四八年に全観会が発足して以来同会で唯一の園主であったが、右園主養成制度に従い、昭和五二年八月被告の下で幹事として園主見習いをしていた訴外和田一雄、同堀川照夫、同鈴木久子の三名を新園主として独立させることとし、同人らに顧客と観音竹とを引き継ぐとともに、自らはその買取義務を免れ、OB園主となった。その後、全観会システムによる観音竹販売事業は次第に拡大してゆき、右三名新園主からさらに新園主が独立し、昭和五四年には、約一一名の業者が活動していた。

同様な方式により昭和六〇年ころには園主の数が約三七名、OB園主の数が約二二名、観音竹の鉢数約一二万鉢、顧客数が約七〇〇〇人にものぼるようになったが、そのころ、いわゆるペーパー商法として社会問題化した豊田商事の事件が報道機関を通して報道された結果、自己の有する観音竹の買取請求権が現実に保障されるか否か不安に感じた顧客の一部がそれぞれの園主に対して同時に買取請求権を行使したため、これが履行できずに行方不明になったり、自己破産の申請をする園主も相当数現れ、顧客のほとんどがその有する観音竹の買取請求権を現役園主から保障され得ない状況に立ち至り園主等の業者が全観会システムによる観音竹商法を継続することはできなくなった。

6  訴外高井は、原告らに別紙売買一覧表(一)、(二)記載のとおり観音竹を販売した後、顧客から請求のあった観音竹の買取義務を履行することができず、昭和六〇年一〇月二日に破産宣告を受けたが、当時右訴外人が有していた観音竹の在庫一七七三鉢(うち本件二品種の総柄五三七鉢、同半柄五八一鉢、同けんがい一七鉢、他品種六一鉢、観音竹青木五八〇鉢)は、訴外東田園芸に対し合計金一五〇万円(一鉢当たり平均約八四六円)で任意売却された。

三  出資法違反の主張について

原告らは、観音竹商法は外観上は売買ないし再売買の予約の形式をとっているが、その実質は出資法二条に規定する「預り金」にほかならない旨主張し、被告はこれを争うので、まずこの点について判断する。

前記認定の事実によれば、昭和六〇年ころには、全観会システムにおいて販売される本件二品種の価格(最低三〇万円)とその観音竹としての商品価値との間には著しい隔たりが生じていた事実は否定し難いところであり、同システムにおいて、買主の請求時に販売価格に最低年二割の利殖金が付加されて買い戻される特約(取引の三原則)が存在すること、顧客間での観音竹の売買が禁止されており、当該観音竹は園主が管理していたこと等の事情を考慮すると、出資法二条に実質的に違反する事態が生じていたとの疑問が残ることも確かである。

しかしながら、本件においては、他方、全観会システムにおいても、観音竹の所有権を移転する対価として代金を支払うという典型的な売買契約の形態が採られていたこと、観音竹の所有者は一鉢ごとに特定されており、重複した売買はなかったこと、観音竹は一般的に商品価値を有し、全観会システムにより売買される場合にも通常の商品価値に加えて、年二割の利殖を保証した買戻の特約が付加価値として価格に反映してはいるものの、売買の目的物として一応取引の対象になってきたこと、観音竹は本来趣味の観葉植物であり、その価値は極めて主観的な性格を有すること等の事情が認められる。

したがって、全観会システムによる観音竹の売買が、顧客の請求時に販売価格と最低年二割の利殖金の支払を保証していたとしても、出資法二条二項に規定する「何らの名義をもってするを問わず、これら(預り金等)と同様の経済的性質を有するもの」に該当するものとまでは認めることができない。

四  公序良俗違反の主張について

原告らは、観音竹商法は当初から破綻することを必然とする商法であり、公序良俗に反する旨主張し、被告はこれを争うので、この点について検討する。

1  原告らは、観音竹システムにおいて、園主が観音竹の仔木を一鉢四万円で仕入れこれを三〇万円で売った場合、幹事、理事への手数料(三万円)のほか栽培管理費用等が必要なため、手元に残るのは二三万円であり、これを一年後に最低年二割の利殖を付して買い取ると最低三六万円となり、実質的には一三万円の損失となるのであって、この商法では園主は二割増の価格で買い取る義務を負うため、販売と買取を繰り返すほど損失が増加する旨主張する。

これに対し、被告は、観音竹システムにおいて、客は一本の観音竹で三年経過時に二〇万円ないし三〇万円の収益をあげ、園主は観音竹栽培の技術を身につけることにより観音竹一本で約一〇万円の収益をあげられる、すなわち、三年経過時に仔が出ることによって三年前に三〇万円で売買された観音竹は四八万円から五〇万円になっているが、園主は、二本ないし三本の仔を分け、検査に合格した仔(合格率四〇パーセントないし五〇パーセント)一本を三〇万円で売り、親木を四〇万円で売ると合計七〇万円になるから、この七〇万円から当初の仕入れ原価四万円、手数料(一〇パーセント-三万円)及び買取金五〇万円を差し引くと一三万円が収益となる旨主張する。

2  前記認定の事実によれば、旧園主から客と観音竹を引き継いだ新園主は、仔木を仕入れ又は自己の所有の観音竹を栽培し、これを一鉢三〇万円で売却することにより、売上金を収益として取得する一方、顧客から買取請求のあった観音竹について、もとの販売代金に対し年二割の利益金を付加した金額を支払うという取引を継続し、併せて顧客から預かった観音竹を栽培、管理する業務を遂行していたのであり、全観会システムにおいては、園主の収入源が自己所有の観音竹を売却した金員のみであるところ、園主は取引の三原則に基づいて顧客からの買取請求に応じなければならず、それが当該観音竹のもとの販売代金よりも最低年二割増加した金額であるため、また、仔木の仕入れや観音竹の栽培管理の費用を要するため、園主が一定期間内に営業収益をあげるようにするには買取請求を受けた鉢数よりも多くの鉢数を売却しなければならず、これにより、その園主が買取義務を負う観音竹の鉢数及び債務金額の合計は右一定期間経過後には確実に増加し、当初独立時に引き継いだ鉢数及び金額よりも多くなることが明らかである。右のような観音竹の販売に伴う危険は、園主が新園主の養成という名目のもとに自己の管理する観音竹とそれに伴なう買取義務を新園主に引き継がせ、旧園主自身はその多額債務を免れるというシステムによって一層助長される。他方、小売価格が最低三〇万円と固定されているため、独立する園主が増え、市場に出回る観音竹の数が増加してその観音竹としての商品価値が低下するにつれて、これと販売価格とが次第に見合わないようになり、園主の資産の総体が減少する結果になるが、取引の三原則の約定があるため顧客側で観音竹を買い控えるということもなく、また買取請求を抑制させる事由も特段に存在せず、園主は買取義務を履行し、収益を上げるために観音竹の販売を繰り返すものである。

確かに、被告の主張するとおり、園主は観音竹を売却することにより一時的には利益をあげることができるが、同時にその売却代金に年二割の利殖金を付した金額でそれを買取る義務を新たに負担するのであり、その新しい顧客の買取請求権の行使がほぼ確実に見込まれる以上、右利益は確定的なものということはできない。また、当該園主限りにおいてその利益を確定的なものとする現実的な方法として、新園主を養成して独立させ、管理する観音竹と顧客とを新園主に引き継ぎ、自己の買取義務を免れる手段が残されているが、この場合でも買取義務そのものは別個の主体に転嫁されて存続するものであり、右買取義務が根本的に消滅することは現実には考えられない。

なお、<証拠>によれば、被告は、全観会システムを施行するに際し、観音竹の売却を一人三鉢、一家族五鉢に限定する原則を設けたが、右原則は顧客数が増加するにつれてこれを守ることが困難になるうえ、仮に園主がこれを厳格に順守しても、いずれ買取義務を履行できなくなる時期が来るのは同様であって、右原則が観音竹商法を適正に機能させるための有効な方途であると認めることはできない。

3  このように、全観会システムのもとでは、園主が自己の収益を確定的にするためには観音竹を売却し、買取義務を負う観音竹の数をその独立時よりも増加させた状態で新園主に引き継がなければならず、しかもこの方法が右システムによる観音竹取引そのものをさらに不安定なものとする要素を内包しており、一方独立する園主が増えるに従って観音竹の商品としての経済価値が低下するにもかかわらず、園主らが負う買取義務の総額は累積的に増大して行くのであって、その増加率が本件二品種の繁殖率によって規定されるという限界を有するとしても、右システムに基づく観音竹商法は、結局、園主が買取義務を履行するのに十分な観音竹を販売することが困難になり、支払不能となった時点で破綻に逢着せざるを得ない性質を有するものであり、適正な商取引の方法としては欠陥があるものといわなければならない。

4  また、本件においては、右のとおり全観会システムに基づく観音竹商法がいずれ破綻する性格を有することの外、一鉢の最低価格が三〇万円であり、例えば園主として独立する際に旧園主から引き継ぐ鉢数が六〇〇鉢であればその買取債務の額が二億円にも達し、営業を継続するにつれてそれが数億円という高額に上昇すること、反面、園主になる資格について資産面での制約はなく、園主が顧客から一時的に買取請求権を行使された場合に担保となるものは観音竹を含めた当該園主の個人資産のみであって(園主が独立時に旧園主から贈与又は貸与される一〇〇〇万円の営業資金が、増加してゆく買取義務を履行するのに著しく不十分であることは論を持たない。)、観音竹商法を継続すると、その販売が行き詰まり園主による買取義務の履行が事実上不可能になった時点で、一般大衆に対し莫大な損害を被らせる危険が存在し、現実にそのような事態が生じたこと、出資法二条、八条は、預金等をなさんとする一般大衆の地位を保護し、社会の信用制度と経済秩序の維持、発展を図ることを目的として、預金等の受け入れ等の受信業務を行うことを原則として禁止し、銀行法等他の法律に特別の規定のある者を除く外、何人も業としてこれを行ってはならないと定め、その違反者に対しては刑罰を科することとしているが、年二割の利殖金を保証する全観会システムによる観音竹の購入が単に利殖のみを目的として利用される危険があり、これを防止する有効な手段も存在せず、観音竹の数が増加した際に売買としての実質が薄れ、当初の販売代金が預り金と類似の性格を帯びることになり、出資法二条、八条の立法趣旨に実質的に反する結果を生ずること等の事情も看過することができない。

以上のような事情を総合すると、新園主の独立に伴う免責的債務引受の制度が組み込まれた全観会システムに基づく観音竹商法は、利益追及の方法自体に欠陥を内包し、かつ、その取引規模からみて一般大衆に多額の損害を被らせるという不当な結果を招来するものであると認められ、適正な財貨の取引秩序に著しく違背し、少なくとも客観的に見る限り、公序良俗に反し、違法性を有するものというべきである。

五  訴外高井の不法行為責任

<証拠>を総合すると、次の各事実が認められ、右認定を覆すに足る証拠はない。

訴外高井は、昭和五八年七月に独立して園主になり、貴志園芸から顧客の所有する観音竹一二〇〇鉢を引き継ぎ、四億円余に上る買取義務を引き受けることになった。その際、貴志園芸から、開業資金として一〇〇〇万円を贈与されたが、同人には他に買取義務を履行するのに十分な資力がなく、同人は、全観会の執行部から昭和五八年一一月に二〇〇〇万円、昭和五九年に二〇〇〇万円、昭和六〇年に二一〇〇万円の各借り入れをしており、極めて苦しい営業状態であった。訴外高井は、一時に顧客から買取請求権を行使された場合に、買取義務の履行が十分できないことを知りながら、右のとおり全観会システムによる観音竹商法を行っていたところ、各原告に対し、取引の三原則を約束し、別紙売買一覧表(一)、(二)各記載のとおり観音竹を販売し、売買代金を受け取ったが、その後買取義務を履行することができなくなり、各原告に対し右代金相当額の損害を与えた。

以上の事実によれば、訴外高井は、全観会システムによる観音竹商法が、公序良俗に反し違法性を有するものであることを認識しながら、取引の三原則を確実に履行する資力がないのにあるかのように装い、原告らに対しその旨履行されるものと誤信させて本件各観音竹の購入をさせたものといえるから、民法七〇九条により、各原告に対し不法行為に基づく損害を賠償する責任を負うものというべきである。

六  被告の責任

原告らは、被告は訴外高井と共同して各原告に対し不法行為を行い、又は少なくとも訴外高井の各原告に対する不法行為を幇助したものであるから、民法七一九条一項又は同条二項により責任を負うものである旨主張するので、この点について検討する。

1  <証拠>を総合すると次の各事実が認められ、右事実に反する被告本人尋問の結果は前掲各証拠と対比して信用することができない。

(一)  被告は、前記一のとおり、昭和五二年八月に三名の園主を独立させたが、その後右三名の園主がそれぞれ次の園主を独立させてOB園主になったため、園主が増えその販売方法や接客態度の違いから園主間や園主と顧客との間に問題が生じてきたため、被告は、昭和五四年ころ、右問題の調整、解決を図ることを目的として全観会の組織の中に執行部を設置し、被告の独立させた園主のうち訴外堀川照夫、同鈴木久子をそれぞれ右執行部の理事長、副理事長として就任させた。また、被告は、昭和五五年ころ全観会システムによる観音竹の販売を円滑に促進すると共に園主間の親睦を図るために、園主、OB園主から構成される業者組合を組織し、その組合長に被告の独立させた訴外和田一雄を、専務理事に被告の知人である訴外小西一雄を、それぞれ選任した。

(二)  被告は、園主が増加して各園主による観音竹の品質検査の基準に差異が生じたことから、その基準を統一し、高品質の観音竹を保護、保存し、全観会システムによる観音竹販売を維持してゆくために、昭和五六年ころ観音竹の検査制度を設け、検査基準を作り、その検査に合格した観音竹のみが最低三〇万円の価格で販売できるものとし、その検査場を被告所有の敷地内に置き、被告自身が昭和五七年ころまでその検査員として観音竹の品質検査に当たっていた。その後、被告は品質検査を他のOB園主に委ねたが、右敷地は引き続き検査場として提供されていた。

(三)  本件二品種の割仔総柄の仕入価格について当初定めはなかったが、被告は、昭和五七年ころ、全観会におけるOB園主の御価格を固定し、業者の経営をより安全かつ豊かなものとするため、本件二品種の割仔総柄の仕入価格を四万円と決定し、これを全観会における仔木の御値として行き渡らせた。

(四)  被告は、昭和五八年七月ころ貴志園芸を経営していた貴志進園主が行方不明になり、その後貴志園芸に対し顧客から観音竹の買取請求が相次ぎ、取りつけ騒ぎが生じたことから、OB園主、現役園主と対策を協議した末、全観会の執行部から貴志園芸に三億円余を融資し、買取請求のあった観音竹を買い取ることにした。

(五)  被告は、昭和五八年一二月、右のような取りつけ騒ぎを防ぐため、全観会システムにおいては自信をもって販売した観音竹は自信をもって買い取ることが商売の基本であるから、商売の基本として買取を実行すべきである旨の方針を示し、これを実践するため、被告の自宅に園主、幹事を集め、「特訓」と呼ばれるおよそ二〇日間にわたる研修を主催し、買取のための演技指導等を行った。

なお、被告は、右研修に参加していた訴外高井から依頼され、全観会執行部に対し右訴外人に二〇〇〇万円を融資することの斡旋をし、併せて、同訴外人に対し全観会システムによる観音竹商法を推進するように指導した。

(六)  被告は、昭和五二年八月に三人の園主を独立させて以降、OB園主として現役園主等に対し仔木の卸売りをして利益をあげてきたが、昭和五八年一〇月ころから昭和六〇年七月までの間をとると、被告がその間に販売した観音竹の数は少なくとも四六〇〇本に達し、一億八〇〇〇万円以上の収入を得ていた。

2  右1(一)ないし(六)で認定した事実及び前記一、二及び五で認定した各事実を基にして判断する。

被告は、客観的には違法と認められる観音竹商法を案出したものであるが、独立した園主の経営は独立採算性を採用し、その観音竹の販売は当該園主の個別の判断に基づいて行われているのであるから、個々の園主が全観会システムにより顧客に対し観音竹を販売し、園主において顧客からの買取請求に応じるだけの資力が不十分である結果、顧客と約束した取引の三原則を履行できず、顧客に損害を与えることになったとしても、そのことから直ちに被告がその園主と共同して不法行為を行ったものと認めることはできない。

しかしながら、被告は全観会システムによる観音竹商法を案出したのみならず、その後も全観会システムによる観音竹商法を行う業者の内にあって常に指導的な役割を果たし、右商法を普及すべく種々の工夫をこらし、右システムを修正したり、新たな制度を取り入れるなどして現役園主やOB園主等の観音竹業者全体に働きかけ、右商法を存続させる行為を継続させてきたものであり、他方、園主やOB園主らは、右被告の行為により円滑に観音竹商法を推進できたものである。そうすると、仮に、被告が園主と共同して個々の顧客に対する観音竹販売をした事実が認められないとしても、被告は右のとおり個々の園主の観音竹販売が円滑に推進され得るようこれを援助してきたものといわざるを得ず、したがって、個々の園主が観音竹商法に基づいて違法に観音竹を販売し、これによって顧客が損害を被ったものと認められる場合には、被告に故意又は過失が認められる限り、被告もこれを幇助したものとして民法七一九条二項に基づき個々の園主と連帯して損害賠償責任を負わなければならないものというべきである。

七  観音竹商法に対する被告の認識

原告らは、被告は昭和五二、三年ころには観音竹商法の行き詰まりを予見しており、観音竹商法が破綻することを認識しながら、違法な観音竹商法の立案者としてこれを推進したものである旨主張するので、この点について判断する。

前記認定のとおり被告は、観音竹の保護、保存、普及を目的として全観会システムを考案したものであり、被告が昭和四八年ころ右システムを考案した時点以降しばらくの間は、なお観音竹がその価格に相応するだけの価値を有していたものと認められるのであるから、全観会システムによる観音竹の販売がいずれは破綻し顧客に損害を与える性格のものであり、したがって観音竹商法を行うこと自体が不法行為を構成するものであるとの認識を、被告が当初から有していたものとまでは認めることができない。

しかしながら、元来、取引の三原則を保障し、新園主への買取義務の引き継ぎが組み込まれた観音竹商法は、園主として独立した時点で、将来園主である限り履行を求められることがほぼ確実な多額の買取義務を負担しなければならず、かつ、それを履行し、自らの利潤をあげてゆく過程でさらに多くの買取義務を負担することになるのであって、そのこと自体、正当な商法として成立するかについて疑問を生ぜしめるのみならず、前記六1掲記の各証拠によれば、被告は、昭和五八年六月ころ貴志園主が行方不明になった際、同園主の経営していた貴志園芸の営業状態が思わしくなくこれを引き継ぐ同園主の妻に融資をする必要があること等をそのころ知っていたこと、また、被告が同年一二月に買取運動の一環として園主を集めて被告の自宅で研修を開催したのは、全観会システムによる観音竹商法が必ずしも適正に機能せず、これを放置し得なくなり、園主に対し積極的に買取の姿勢を示すことを指導し、これを実行させることにより、園主及び顧客の不安を少しでも除去する必要性を被告が感じたためであること、被告は、右研修の際、訴外高井から同人の経営する高井園芸が赤字であることをも知らされていたこと、観音竹の商品価値を数字で示そうとする場合、同品種の絶対数が増えるに従ってその価額が低下するのは自明の理であるが、被告は、現役園主等の人数から昭和五八年一二月ころには概ね数万鉢の観音竹がすでに和歌山県下で販売されていることを把握できる立場にあったこと等の各事実が認められる。これによれば、被告は、遅くとも、昭和五八年一二月に買取の研修を開催した時点では、観音竹商法が適正な財貨の取引秩序に違反し、顧客に対し損害を与える性質のものである事実を認識していたものということができる。したがって、被告としては、同時点以降において、自らが考案、推進した観音竹商法が行われこれにより顧客らが損害を被ることを抑止すべき義務を負う(前記認定の業者規模、全観会及び業者組合における被告の実質的な地位、影響力からみて右義務の履行は十分可能であった)立場にあったものとみるのが相当である。ところが、前記認定の事実から明らかなとおり、被告は、その後も、観音竹商法が違法な取引であることを認識しながら、全観会システムの違法性に関し何ら改善、防止する措置をとらなかったばかりか、むしろ積極的にその推進行為をなしたものであって、これら諸般の事情に鑑みると、被告は、前記時点以降における各園主の観音竹販売という違法行為を幇助したものとして、民法七一九条二項に基づき右行為から生じた損害を賠償する責任があるものというべきである。

他方、本件全証拠によっても、右時点よりも前に被告が観音竹商法により顧客が損害を被ることの認識を有していた事実を認めるに足りない。

八  損害

以上の事実を前提として、被告が賠償すべき各原告の損害の範囲を検討する。

1  前記五で認定したとおり、原告中村は、昭和五八年一二月以降、別紙売買一覧表(一)記載のとおり訴外高井から本件二品種を購入し、合計四四七万円の代金を支払い、右代金相当額の損害を被ったものと認められる。

2  前記五で認定した事実から明らかなとおり、原告池永は、昭和五八年一二月以降については別紙売買一覧表(二)の番号7、9及び11ないし20各記載のとおり訴外高井から本件二品種を購入し、合計四五五万円の代金を支払い、右代金相当額の損害を被ったものと認められる。

3  各原告が、その訴訟代理人に対し本件訴訟の提起、追行を委任し、その報酬として相当額の金員の支払いを約したことは当裁判所に顕著な事実であるところ、本件事案の内容、訴訟の経過、請求額及び請求認容額その他諸般の事情を考慮すると、原告らが訴外高井による違法な観音竹販売と相当因果関係のある損害として請求し得る弁護士費用の額は、各原告について、次のとおり認めるのが相当である。

原告中村 四四万七〇〇〇円

原告池永 四五万五〇〇〇円

4  そうすると、原告中村が被告に対して請求し得る損害額は合計四九一万七〇〇〇円であり、原告池永が被告に対して請求し得る損害額は合計五〇〇万五〇〇〇円である。

九  結論

以上のとおり、原告中村の被告に対する本訴請求はすべて理由があり、原告池永の被告に対する本訴請求は金五〇〇万五〇〇〇円及びこれに対する昭和六〇年九月二七日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるから、いずれもこれを認容し、原告池永の被告に対するその余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 弘重一明 裁判官 安藤裕子 裁判官 高橋譲は転補のため署名、捺印することができない。裁判長裁判官 弘重一明)

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